「・・・いってきます」
静かに大きな門を閉めて学校に向かう。
自転車を使えば15分もかからずに行ける高校に通う。
しかし彼女は電車を乗換え30分もかけて通っている。
理由は『自転車に乗れない』『乗る体力がない』から。
彼女は小さい頃から病気持ち。
運動も制限されている。
極力体力を消耗させないために。
教室に入るのはいつもギリギリ。

「菜々恵、おはよっ!今日もギリギリじゃん。」
「!葉月ちゃん。おはよう。」

声をかけて来たのは『葉月』
菜々恵の小学生の時からの親友。
菜々恵は学校で特別親しく話すのは葉月・・・
「菜々ちゃん、おはよー」
・・・ともう1人。
「おはよう、裕貴君」
家が近所の幼馴染みの『裕貴』
小学生最後のクラス変えで一緒のクラスになったものの、近所の小学校に転校してしまった。
高校になって、引っ越しでまた近所に戻って来て以来、親子で仲良くしている。
「・・・顔色悪いな」
「だっ大丈夫・・・。ちょっと急いだから疲れただけよ。」
「そ。ならいいけどムリすんなよ。」
小さい頃からすごく優しい男の子。
小学生の時。
子供ながら菜々恵は裕貴がスキだった。
転校の話しを聞いた時はショックで泣き出してしまうほど。

高校で再会して、恋愛感情はなかった。
転校を聞いたあの日、すべて諦めて忘れると決めたから。
「今さらになって逢わせるなんて、神様はいじわるだわ。。。」
と前に葉月に話した事があった。
「菜々恵に試練を与えたのかもねっ・・・くすっ」
「葉月ちゃんったらヒドイ・・・」
「ゴメンゴメン」

葉月にだけはすべてを話していた。
ただ1人の心を許せる友達。

───放課後
帰りだけは葉月と一緒。
「葉月ちゃん。帰らないの?」
菜々恵が心配そうに聞いた。
「ちょっと待ってね。え―っと・・・いたいた。裕貴―っ!こっちこっち」
裕貴と葉月は同じクラスになった事もあって仲がよかった。
高校で再会してからも仲がいい。
「ゴメンっ。」
「アンタのために待ってたんだからね―」
なにやら葉月はプリプリと怒っている。
「じゃぁ行くか」
───と裕貴が言い出した。
「菜々恵も行くんだよ!」
「え?私・・・」
「ほらっ」
むりやり手を引かれて歩いて行く。
屋上へ通じる階段の前で葉月が止まった。
「葉月ちゃん?」
「ここから先は2人で行くんだよ」
「え?!」
菜々恵がビックリして立ち止まった。
すると
「きゃっ!?」
今度は裕貴が菜々恵の手を引いた。
「裕貴っ!ちゃんとしろよ!!」
と後ろから葉月が叫んでいた。

裕貴は閉まっている屋上のドアの前で止まった。
「ビックリした?」
と菜々恵に聞いた。
「あ・・・うん。」
「これから話す事は全部ウソなんかじゃないからね。」
と続けて話し始めた。
「小さい頃、ずっと一緒に遊んでたの覚えてる?」
と階段に座りながら行った。
菜々恵も座りながら話した。
「覚えてるよ。よくうちの庭で遊んだよね。裕貴君は、お母さんが作るお菓子スキだったね。」
「小学校でクラス変わってからあんまり話さなくなったな。嫌われたかと思った。」
「そんな事・・・ないよ。」
(だってずっとスキだったのに)
心の中で続ける。
「ホントに?今は?」
「えっ・・・?」
「俺は・・・小さい頃からずっと菜々恵の事好きだったよ。転校してもずっと。」
「あ・・・えっ?何・・・」
「ずっと大切な女の子だった。俺と付き合ってくれない?また前みたいに菜々恵を守ってあげたいんだ。」
「私は・・・」
菜々恵は少し恥ずかしそうに話した。
「私もずっとスキだったの。。。でも裕貴君引っ越しちゃうから・・・ダメだから・・・」
「今は嫌い?」
「・・・嫌いじゃないよ。スキにならないようにしてたんだよ。でもスキになっちゃったよ。。。」
「よかった。」
軽く菜々恵を抱きよせる。
「!!!・・・恥ずかしいよ・・・」
「いいじゃん。俺たち恋人同士だし。俺は菜々恵の彼氏だし」
「彼・・・氏?」
「そうだよ。」
「うれしい。」


階段を降りて葉月のもとへ戻る。
「2人共おっそ―いっ!」
「悪い悪い!でもうまくいったから許して(笑)」
「あははっしょ―がないなLOVELOVEカップルはっ」
「葉月ちゃん・・・知ってたの?」
「そ―だよ。裕貴があんたにコクりたいって言うから協力してやったんだよ。」
「そ―なんだ。」
「よかったね。菜々恵♪」


───次の日のお昼
「葉月っ!菜々恵知らね?」
「あのコならいつも屋上の入口の所でお昼食べてるよ」
「1人で?」
「そう。1人が落ち着くらし―よ。MD聞いてるハズだよ。」
「さんきゅ―」


裕貴は階段を駈け登って行った。
「菜々恵!」
ビックリして後ろを振り向く。
「裕貴君!?どうしてココ・・・」
「葉月に聞いた。一緒に昼いい?」
「あっうん。」
裕貴は隣りに座った。
「なんで1人なの?」
裕貴が聞いた。
「1人がね・・・スキなの。ただそれだけ。」
と続けて話していく。


2週間くらいたった頃から菜々恵は体調を崩して休むようになった。
久しぶりに入った教室で菜々恵は散々な目に合う。


ガラっ
久しぶりの教室。
3週間ぶりの登校だった。
「あっ」
葉月と目が合った。
フイっ
葉月は行ってしまった。
(いつもあいさつしてくれるのに。。。気付かなかったかな?)
帰りも別々になるようになってしまった。
タイミングよく裕貴が一緒に帰ろうと誘ってきたのでそうしていた。
だから最初は菜々恵もあんまり気にはしていなかった。

───ある日の朝
菜々恵から声をかけた。
「葉月ちゃん、おはよう。」
フイっ
また葉月は行ってしまった。
(うそ・・・今シカトされた?なんでっ・・・!)
菜々恵はバックを持ち教室を走って出て行ってしまった。
「菜々恵!?」
教室にいた他の友達が気付いて叫んだ。
───が菜々恵はもういなかった。
タイミング悪く葉月がシカトしている所を裕貴は見ていた。
裕貴は葉月の手を引いて教室を出た。
「ちょっと来て。」


「どうしてあんなコトしたんだよ。」
「・・・」
「答えろよ。」
「・・・ほっといてよ。裕貴には関係ないっ!」
裕貴の手を振り払って葉月は教室に戻った。


───その頃菜々恵は『カウンセラ―室』にいた。
偶然泣きながら階段を降りる菜々恵を先生が保護していた。
先生の前で菜々恵はひたすら泣いていた
「・・・っどうして」
「菜々恵?」
心配して裕貴が尋ねて来た。
「裕貴君・・・っ」
子供みたいに裕貴に抱きついた。
「やだよぉっ・・・1人はやだよ・・・」
「菜々恵、大丈夫だよ。俺ココにいるだろ。」
「いやっ・・・ううっ。」
この時菜々恵の心も体も限界が襲っていた。
───そして
バタンっ
大きな音を立てて菜々恵は意識を失った。


「菜々恵っ!?」
裕貴は必死に菜々恵を呼んだが目を覚まさない。
先生が「病院に連れて行きましょう」と行ったので救急車を呼んだ。


病院に着いてしばらくして、菜々恵の母とお手伝いさんが到着した。
「菜々恵・・・」
母は落ち着いて医者に尋ねた。
「あの子の体力はもう限界ですか・・・?」
「体力の方はまだ問題ありません。ただ・・・」
「なんですか?おっしゃってください。」
「精神的に不安定になっています。」
「・・・そうですか。入院は必要ですか?」
「はい。こちらで手続きを───」
───と医者は母に場所を説明し「また、のちほど。」と言って行ってしまった。
「裕貴君、ごめんなさいね。わざわざこんな所まで・・・。」
「いえ、あの・・・菜々恵・・・何か病気ですか?」
「───あの子は治らない病気なの。体力が他の人より少なくて疲れやすいの。抵抗力もなくて病気にも弱いのよ。」
「・・・それだけじゃないですよね。」
裕貴は何かに気付き母に尋ねた。
「さすが・・・。相変わらず鋭いのね。───あの子の命は長くないわ。」
「・・・いつまで生きれますか?」
「お医者様は『20歳の誕生日を迎えられたら奇跡』とおっしゃったわ。」
「そうですか・・・。」


母親が病室に向かうと、菜々恵は意識が戻っていた。
「菜々ちゃん。わかる?」
と母親が聞いた。
「・・・う・・ん。わかる・・・。」
「よかった。」
母は笑顔で言った。
「さっきまで裕貴君がついててくれたのよ。」
「裕貴・・・君が?」
「そうよ。とても心配そうにしていたわ。」
「そう・・・。」
瞳に涙を浮かべて言った。
「裕貴君・・・私の事守ってくれるって。私の事ずっとスキだって。私たち恋人だって言ってくれた。」
「よかったわね。」


1ヵ月後菜々恵は退院。
母親と話し合って、少しづつだけど学校にも戻る事にした。
「菜々ちゃん、おはよう。体・・・大丈夫?」
と裕貴が話しかけてきた。
「おはよう。今はまだ大丈夫みたい。。。」
葉月とは相変わらずだったけど、特にイジメられたりする事はなかった。
毎日、裕貴と一緒に帰った。
───ある日。
裕貴が「図書室に用があるから待ってて」と言った。
待たされて50分がたった。
あまりにも遅いから、菜々恵は裕貴の様子を見に行く事にした。


カチャっ
図書室の扉をゆっくり開いた。
(裕貴君ドコ・・・かな)
一番奥の本棚で物音がした。
菜々恵が近付いて行った。
「葉月、俺菜々恵待たせてんだけど、用事って何?」
(葉月ちゃんもいる・・・?)
「菜々恵と別れて。」
「は?!葉月・・・お前何言ってんだよ。」
「別れてよっ!」
「葉月、落ち着けって。」
「私だって裕貴の事がスキなんだよ!」
そう言って葉月は裕貴にキスをした。
「葉月・・・俺」
ガタっ
驚いて葉月が振り向いた。
「菜々恵っ!?」
「葉月ちゃん・・・そうだったんだ。」
そう言う菜々恵に裕貴が言った。
「菜々恵、今の見てたのか?」
「見てたよ、2人がやってたコト。」
「菜々恵・・・。」
菜々恵と葉月の目が合った。
「───だから葉月ちゃんずっと私の事」


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